フリーランスとして働く人を守る “盾” に?
2024年11月1日から施行される“フリーランス新法”こと「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」とは、フリーランスと事業者間の取引の適正化と、フリーランスの就業環境の整備を目的とした法律です。
簡単にいうと、フリーランスとして働く人の権利を守り、安心して働ける環境を整備するために作られた法律になります。
フリーランス新法で定義する「フリーランス」とは、企業などに所属せず、個人単位で事業を行う人という意味で用いられています。
近年、働き方の多様化が進み、2020年に内閣官房が実施した調査によれば、462万人(※1)がフリーランスとして働いていると試算されています。
(※1)【参考】中小企業庁:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法) 「第1部〜フリーランスの実態、新法制定の経緯と趣旨」より
本記事では、某広告代理店勤務の編集者兼ライターで、フリーランスでの活動経験もある筆者の所感も踏まえつつ、施行まで3か月を切ったフリーランス新法の要点と影響について、ゆるくお話ししていきます。
現在フリーランスとして活動している方はもちろん、これからフリーランスでやっていきたい方向けに、イメージを膨らませるお手伝いができれば幸いです。
フリーランス新法制定の背景
フリーランス新法が制定された背景には、働き方の多様化が進み、フリーランスとして働く人が増加する一方で、彼らが不利な立場に置かれやすいという現状がありました。
従来、日本においては、労働者保護の観点から、労働基準法をはじめとする労働関係法令が整備されてきましたが、これらの法令は、企業と従業員との間の雇用関係を前提としています。そのため、個人事業主やフリーランスといった雇用関係にない働き方に、十分に対応できるものではありませんでした。
フリーランスは、労働基準法などの労働関係法令が適用されないため、労働条件についての規定が少なく、取引において企業などの発注事業者と比べ、弱い立場に置かれがちです。
その結果、企業から報酬の支払いを遅延されたり、一方的に減額されたりと、特に労働時間や報酬などの面で、企業との間で不利な立場に立たされるケースが多発していました。
また、口約束で仕事を受注し、仕事が完了した後で、納品や報酬に関するトラブルが起きたり、フリーランスに対するハラスメントへの対策が不十分であったり、企業に所属する労働者のような育児・介護の支援制度を利用できなかったりと問題点も多く、深刻な社会問題となっていたのです。
これらの問題に対処するため、2021年には、フリーランスと事業者間の取引における独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)、下請法(下請代金支払遅延等防止法)、労働関係法令の適用関係を明確化し、問題となる行為を具体的に示した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下、フリーランスガイドラインと表記)が策定されました。
ただし、フリーランスガイドラインは、あくまでガイドラインで法的拘束力はありません。そこでより実効性のあるフリーランス保護のための法的枠組みとして、フリーランス新法が施行されるのに至ったわけですね。
フリーランスの権利保護強化のポイント
フリーランス新法では、フリーランスと発注事業者間の取引の適正化と、フリーランスの就業環境の整備を目的に、発注事業者に対し、以下の点を義務付けています。
フリーランス新法では、これまで明確なルールがなかったフリーランスと発注事業者間の取引に一定のルールが設けられ、フリーランスを保護するための法的拘束力が高められました。
発注事業者にフリーランス新法に違反する内容があった場合は、公正取引委員会や中小企業庁長官、厚生労働大臣などの行政機関が、違反内容に応じ、報告徴収・立入検査、指導・助言、勧告、勧告に従わない場合の命令・公表といった対応を行います。
また、命令違反した事業者には、50万円以下の罰金が予定されており、発注事業者が法人の場合、行為者と法人両方が罰せられます(フリーランス保護新法二十四、二十五条)。
フリーランス新法における最大のメリットは、契約内容の明確化や報酬支払いの義務化により、フリーランスの権利保護が強化され、働き方がより安定することにあります。
これまで問題視されていた不当な取引や報酬未払い、ハラスメントなどのリスクが軽減されることから、企業との取引において不利な立場に立たされることも少なくなり、フリーランス人口の増加や地位の向上が見込まれます。
フリーランス新法が適用される「フリーランス」の考え方
フリーランス新法における「フリーランス」とは、従業員を使用していない者を指します。フリーランスと聞くと、カメラマンやウェブデザイナー、イラストレーター、SE、美容師、インストラクターなどクリエイティブな職種のイメージがあるかもですが、企業に雇われずに個人で仕事を請け負っている人も、従業員を使用していなければ、この法律における「フリーランス」に当たります。
フリーランス新法は、特定の業種や職種を対象とした法律ではなく、従業員を雇用せずに事業を行う個人事業主または法人である特定受託事業者と、その特定受託事業者に業務委託を行う事業者との間の取引を対象とする法律です。
たとえば、一人で仕事をしている個人事業主や、法人でも従業員を雇っていない、いわゆる「一人社長」の場合など自分自身の経験や知識、スキルを活かして収入を得ている人は、フリーランス新法の保護対象です。
特定受託事業者の定義については、フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の第二条で言及されています。
(定義)
第二条 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの
2 この法律において「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である前項第一号に掲げる個人及び特定受託事業者である同項第二号に掲げる法人の代表者をいう。
3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
4 前項第一号の「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。
一 プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
二 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
三 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
四 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの
5 この法律において「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。
6 この法律において「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用するもの
二 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの
7 この法律において「報酬」とは、業務委託事業者が業務委託をした場合に特定受託事業者の給付(第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、当該役務の提供をすること。第五条第一項第一号及び第三号並びに第八条第三項及び第四項を除き、以下同じ。)に対し支払うべき代金をいう。
フリーランスは、「労働者」ではなく「事業者」であるという点が重要です。労働者は、労働基準法などの労働関係法令で保護されますが、フリーランスは原則、これらの法律の適用外です。
ただし、業務の実態によっては、フリーランスであっても労働者とみなされ、労働関係法令の保護を受ける場合があります。 そのため、指揮監督関係、報酬の決定方法、業務の代行可能性など、さまざまな要素を総合的に考慮して判断されることになります。
また、「副業」がフリーランス新法に該当するかどうかは、その副業の内容や働き方によって異なります。
繰り返しますが、フリーランス新法が適用される取引は、事業者がその事業のために、従業員を雇用していないフリーランスなどの事業者に対して、物品の製造、情報成果物の作成、または役務の提供を委託する場合です。
副業の場合、それが企業から業務委託を受けて行うものであれば、フリーランス新法の対象となる可能性があります。たとえば、副業でWebデザインやライティング、プログラミングなどを請け負っている場合、それが企業からの業務委託であれば、フリーランス新法が適用される可能性があるでしょう。
ただし、フリーランス新法では、従業員を雇用していない事業者を「フリーランス」と定義しているため、副業であっても、従業員を雇用している場合は、フリーランス新法の対象外となります。また、フリーランス新法の対象となる取引は、あくまでも「業務委託」であり、雇用契約に基づく労働ではありません。
よって副業であっても、企業から指揮命令を受けて、特定の時間や場所で働く必要があるなど、「実質的に労働者と同様の働き方をしている」場合には、フリーランス新法ではなく、労働基準法などの労働関係法令が適用されることになります。
したがって、副業がフリーランス新法に該当するかどうかは、「副業だから」という点だけで判断はできず、業務内容や働き方など個々のケースごとに判断する必要がある点に注意です。
フリーランスは、自らの権利を自主的に守る必要がある
フリーランスの権利保護には、フリーランス新法だけでなく、独占禁止法や下請法なども関係してきます。
独占禁止法は、優越的な地位にある事業者による不当な行為を規制するものであり、フリーランスと発注事業者の間にも適用されます。
下請法は、資本金1,000万円を超える発注事業者に対して、フリーランスを含む下請事業者への不当な行為を禁止するものです。
フリーランスは、これらの法律についても理解を深めるとともに、自身の権利が侵害された際には、適切な手段をもって、自主的に救済を求めることが重要になります。
たとえば、一方的な契約破棄や報酬の減額・未払い、暴言・暴力などのパワハラ行為、「断ると仕事を回さない」などセクハラ行為を強要された場合、一人で抱え込まずに相談窓口を活用するなどして、自らの権利を自主的に守らなくてはなりません。
厚生労働省では、フリーランス、個人事業主、クラウドワーカーなどと呼ばれる労働基準法上の労働者ではないとされる方向けに、「フリーランス・トラブル110番」を開設しており、運営事業者である第二東京弁護士会の弁護士による無料相談を受けることができます。
ちなみに、フリーランス・トラブル110番に寄せられた令和5年度の相談件数は8,986件(月平均750件程度)(※2)です。
(※2)【参考】厚生労働省:フリーランス・トラブル110番の相談及び和解あっせん件
また、公正取引委員会や中小企業庁などでも、フリーランス向けの相談窓口を設けているので、有事の際は問い合わせて、アドバイスや指示を仰ぐといいでしょう。
フリーランスは、会社や組織に属するいち労働者ではなく事業者です。ゆえに自らの権利を自主的に守り、より良い就労環境を開拓、確保していこうとする姿勢が求められます。
現在フリーランスとして働く人はもちろん、これからフリーランスでやっていきたいと考えている人は、自らの権利や義務について理解を深めるとともに、事業者として責任ある行動をとる必要があるのです。
フリーランス新法の対象となる取引
フリーランス新法の対象となる取引は、従業員を雇用していないフリーランスと企業(発注事業者)との間の業務委託になります。
事業者が、その事業のために、従業員を雇用していないフリーランスなどの事業者に対して、以下のいずれかの業務を委託する場合です。
・物品の製造(加工を含む)
・情報成果物(※3)の作成
(※3)情報成果物には、プログラム、映画、放送番組、文字、図形などが含まれます。
・役務(サービス)の提供
たとえば、企業が宣伝用に使う写真の撮影を、フリーランスのカメラマンに依頼するケースなどが該当します。
一方で、消費者が家族写真の撮影をフリーランスのカメラマンに依頼する場合や、フリーランスが自作の写真集をネット販売するケースは、フリーランス新法の対象外です。
なおフリーランスのカメラマンが、他のフリーランスのカメラマンに写真の編集作業を再委託する場合、編集作業を依頼された側のカメラマンが従業員を雇用していなければ、この法律が適用されることになります。従業員を雇用しているフリーランスは、この法律で定める「フリーランス」には該当しない点に注意です。
また、フリーランスと発注事業者間の取引であっても、実態として「労働者」とみなされる場合は、労働基準法などの労働関係法令が適用されることから、フリーランス新法の対象外です。
フリーランス新法の対象となる取引かどうかは、職種や契約の名称うんぬんではなく、実際の働き方や取引の内容にて判断されることになります。
フリーランス新法がもたらす、フリーランス側のデメリット
ここまではフリーランス新法がフリーランス側に与える影響(主にメリット)について触れてきましたが、フリーランス側へのデメリットが皆無ということはないでしょう。
たとえば、契約内容の厳格な明示義務や報酬支払いのルールが増え、新たな規制が加わることで、フリーランスと発注者の間で柔軟な取引が難しくなるケースが考えられます。
これまで書面を明確に通さないようなやり方で依頼を請け負っていた場合、基本的に権利はフリーランス側に留保されていると解釈される可能性が高かったと思われます。しかし、書面の交付が義務化されると、口約束で済ませていた時に比べ、発注者側に有利な条件にて、契約が締結されてしまう契約内容が標準化する可能性が考えられます。
また、フリーランス・発注事業者ともに、契約書の作成や内容確認といった工程がかかることから、コストや事務作業の負担もおのずと増えるでしょう。
具体的にどういった影響が出るかは、施行されてみないことにはわかりかねますが、法改正の内容を踏まえて、これまでの契約内容、取引状況が具体的にどう変わって、自身の働き方や実務にどんな影響を及ぼすのかをシミュレーションしておく必要があるでしょう。
契約内容で言えば、特に取引条件の明示や報酬の支払期日・条件など、法改正にともない義務付けられたポイントが、契約書にしっかり反映されているかどうか、入念にチェックすることが大切です。
発注事業者側のフリーランス新法への理解度が浅く、契約書の細部まで注意を払えていないといったケースは十分に考えられますしね。
あとこれは個人的な意見になりますが、「法律なので守ってください(怒)」とクライアントを牽制するようにフリーランス新法の名を持ち出すのではなく、コミュニケーションを円滑にするために、会話の節々で、忍ばせられると良いんじゃないかなとは思います。
たとえば、クライアントから何か無茶ぶりをされた際、「なるほど! ……しかし、フリーランス新法ができちゃいましたので、契約書に明示されてないことを勝手にお受けしてしまうと、後々、〇〇さん(担当者の名前)に、ご迷惑をおかけする可能性があります。たいへんお手数なのですが、契約書を改変し、正式な形で依頼を投げていただけますでしょうか?」などといえば、相手は作業が面倒になり、「じゃあいいや」となるかもしれませんね。
フリーランス新法がもたらす企業側への影響
フリーランス新法には、フリーランスと企業側双方にとって、より透明性が高く、公正な取引環境の実現を目指しているという側面があります。
フリーランスとの取引においては、これまで以上に書面による契約条件の明示や、報酬の支払期日の設定などルールが明確化されていることから、法令違反のリスクを減らし、コンプライアンスの徹底ができるようになっていくと考えられます。
また、フリーランスへのハラスメント対策や、妊娠・出産・育児・介護などを理由にした不利益な扱いを禁止するなど、就業環境が整備されることで、発注事業者との誤解・トラブルが生じる確率が低減されることが期待されます。
事業者側はこれらの規定を遵守することで、フリーランスがより働きやすい環境を提供できるようになります。その結果、多様なスキルを持つ優秀な人材の確保や、ブランドイメージの向上につながる可能性もあるでしょう。
一方で、契約内容の書面化や報酬支払いなどが厳格化されることで、これまで口約束で済ませていたあいまいな部分は契約書に落とし込みづらく、企業側の事務作業が増加する可能性があります。
ただし、これまでどおり契約書にない内容をフリーランスに強いた場合、契約違反とみなされ、発注側は行政指導の対象となり、場合によっては罰金を科されます。
また、労働関係法令の知識不足や、曖昧な契約によるトラブルを避けるため、発注事業者側は、より厳格な契約書を作成するために、適切な労務管理体制の構築が求められるでしょう。状況によっては法律の専門家への相談費用なども発生し、発注コストの上昇やフリーランスへの報酬額がこれまでよりも高額になる可能性もあります。
発注事業者とフリーランスの双方が納得できる妥協点を定めるためにも、法改正の内容を正しく理解し、対等でより良い関係性を築いていくことが大切ですね。
おわりに
フリーランス新法の施行により、日本におけるフリーランスを取り巻く環境は過渡期を迎えようとしています。
ただし、フリーランス新法はあくまで、フリーランスと事業者間の取引の適正化を図り、フリーランスが安心して仕事を受注できる環境を整備するための法律です。そのため、フリーランスが抱えるすべての問題を解消できるほど万能ではありません。
たとえば、修正回数や報酬減額の妥当性など、どこまでが「不当」な扱いになるのか、依然として線引きの難しい部分は残されており、具体的な事例に基づいたガイドラインの整備などが求められます。
とはいえ、従来よりフリーランスの働き方を安定させ、問題を減らす “盾” になってくれることを願わずにはいられません。
発注事業者の中には、「フリーランスへ依頼がしづらくなる」とか「面倒ごとが増えた」とかマイナスに捉えている方もいるかもしれませんが、フリーランス新法の本質は、フリーランスの要求がいきなり高くなることでも、融通を図ることでも、クライアントを訴えやすくさせることでもありません。
あくまで、フリーランスと発注事業者の間でトラブルが起きないよう合意の履歴を残しながら、相互理解を深め、円滑にビジネスを進めていきましょうという、ごくシンプルで基本的な話です。
フリーランス新法の内容と意義を正しく理解し、フリーランス、発注事業者双方ともに、適切な対応を行っていくことで、フリーランス側はもちろん、発注事業者を守る盾にもなるはずです。
<関連リンク>
内閣官房:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)等に係る取組について
中小企業庁:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)
厚生労働省:フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ
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①:書面等による取引条件の明示
発注事業者は、業務を委託した場合、直ちに「業務内容」「報酬の額」「支払期日」などの取引条件を書面または電磁的方法(メール、SNS のメッセージ等)で明示する義務があります。
これは、口約束によるトラブルを防ぎ、フリーランスが安心して業務に取り組める環境を作ることが目的です。
具体的な明示事項としては、以下の点が挙げられます。
・業務内容
・報酬額
・支払期日
・業務委託事業者とフリーランスの名称
・業務委託をした日
・給付を受領する日/役務の提供を受ける日
・給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所
・検査をする場合の検査完了日
・現金以外の方法で報酬を支払う場合の支払方法に関する必要事項
・その他、公正取引委員会規則で定める事項
これまで曖昧な部分が多かった契約内容を、書面等で明確にすることが義務付けられたことにより、業務範囲や報酬額、支払い期日などを業務遂行前に確認でき、認識の齟齬やトラブルを未前に防ぎ、安心して業務に取り組むことができるようになります。
②:報酬の支払期日の設定・期日内の支払
発注事業者は、原則として、成果物を受け取った日から60日以内のできるだけ早い日に報酬を支払わなければなりません。支払期日が事前に定められていない場合でも、60日以内の支払いが義務付けられます。
これにより、報酬の支払いが遅延したり、支払われなかったりするリスクが軽減され、フリーランスの資金繰りの安定化が期待できます。
③:受領拒否、報酬の減額等、フリーランスへの不当な行為の禁止
発注事業者がフリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しといった行為が禁止されます。
発事業者は、フリーランスに対して、正当な理由なく、以下の行為を行うことはできません。
①:受領拒否(注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと)
②:報酬の減額(あらかじめ定めた報酬を減額すること)
③:返品(受け取った物品を返品すること)
④:買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること)
⑤:購入・利用強制(指定する物・役務を強制的に購入・利用させること)
⑥:不当な経済上の利益の提供要請(金銭、労務の提供等をさせること)
⑦:不当な給付内容の変更・やり直し(費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること)
また、報酬の減額において、フリーランスに責任がないにもかかわらず、「発注時に決めた報酬額を後で減額すること」は禁止されています。フリーランスとの協議で、減額することについて合意があった場合も違反になります。
④:募集情報の的確表示
発注事業者が、新聞や雑誌その他の刊行物に掲載する広告等でフリーランスを募集する際、報酬額や業務内容に関して、虚偽や誤解を招くような表示はしてはいけません。
また、募集情報を正確かつ最新の内容に保たなければならないとされています。
⑤:育児・介護等と業務の両立に対する配慮
発注事業者は、フリーランスに対して6か月以上の業務を委託する場合に、フリーランスが妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ業務に従事することができるよう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮を行う必要があります。
配慮の例としては、以下のような対応があげられます。
・「妊婦健診がある日について、打ち合わせの時間を調整したり、就業時間を短縮したりする
・「育児や介護などのため、オンラインで業務を行うことができるようにする」
発注事業者は、フリーランスから申し出があった場合、妊娠・出産・育児・介護を理由とする不利益な取り扱いをしてはならず、就労時間や就労場所などの配慮をする必要があります。
なお、6か月未満の業務委託の場合でも、同様の配慮をする努力義務があります。
⑥:ハラスメント対策に係る体制整備
発注事業者は、ハラスメント行為によってフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備などの措置を講じなければならないとされています。
体制整備などの必要な措置の例としては、以下のような対応があげられます。
・「従業員に対してハラスメント防止のための研修を行う」
・「ハラスメントに関する相談の担当者や相談対応制度を設けたり、外部の機関に相談への対応を委託する」
・「ハラスメントが発生した場合には、迅速かつ正確に事実関係を把握する」
これらはフリーランスの就業環境を害するようなハラスメント行為を防止するためであり、フリーランスが安心して働ける環境を整備するための重要な措置となります。
⑦:中途解除等の事前予告・理由開示
発注事業者は、6か月以上の業務委託を中途解除する場合や、更新しないこととする場合は、原則として30日前までに予告しなければならないとされています。
また、その方法は口頭や電話ではなく、「書面」「ファクシミリ」「電子メール」などによる方法とされています。
【参考】中小企業庁:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)【令和6年11月1日施行】説明資料 公正取引委員会:「フリーランス法特設サイト」