新型コロナの分類が5類に変わってからは出社する機会も増え、ノーマスクで顔を合わせての定例ミーティングが新鮮に感じられていましたが、すぐにまたマンネリ。
そこで久々に、ウォーキング・ミーティングを取り入れてみたところ、「やっぱりいいゾ!」と再実感しました。
従来の、会社の会議室などで行うミーティングのことを「オンサイトミーティング」と呼ぶのに対し、職場から離れた場所や環境にて行うミーティングを「オフサイトミーティング」と呼びます。
ウォーキング・ミーティングはオフサイトミーティングの一種で、従来の会議室に閉じこもって行う会議ではなく、屋外を歩きながら行う新しい会議形式を指します。
「歩きながらする会議」と聞いて、TEDのプレゼン動画を思い出された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ウォーキング・ミーティングは、参加者の健康やリフレッシュメントの促進、生産性の向上、社内コミュニケーションの活性化など、さまざまな利点が期待できると、海外メディアを中心に注目を集めました。
実際、チームビルディングの一環に導入している企業も多く、日本国内では、株式会社ぐるなびの事例が広く知られているところです。
ぐるなび社のウォーキング・ミーティングの発起人は、現取締役会長兼社長の杉原章郎氏で、趣味のウォーキングを三日坊主にしないために、仲間を誘って歩きながら仕事の話をしたことから始まったそうですよ。
社長と従業員がともに肩を並べて、同じ方向を見ながら歩き、話し合うことで、上下関係の垣根を超えたフラットな雰囲気を醸成。運動によるリフレッシュ効果も手伝って、前向きでユニークな意見交換が可能になり、円滑なコミュニケーション環境を構築できていったそうです。
成功者たちがウォーキングを重要視する理由
Appleの共同創業者である故スティーブ・ジョブズ氏、Meta(旧Facebook)創業者のマーク・ザッカーバーグ氏、元米国大統領のバラク・オバマ氏、X(旧Twitter) 元CEO のジャック・ドーシー氏らがウォーキング・ミーティングを実践していたことは、世間的にもよく知られている話でしょう。
また、「コペルニクス的転回」で知られる哲学者のイマヌエル・カントや、「進化論」で知られる自然科学者のチャールズ・ダーウィンも散歩愛好家として知られています。
ザッカーバーグ氏は、シリコンバレー メンローパークにある本社の屋上にウォーキング・トレイルを設けるほど「歩きながら働く」を重要視しており、ダーウィンは自宅に思考する際の専用散歩道を作り、一周するごとに石の数を数えて、問題の難易度を石の数で表現したという逸話があります。
彼らはいわゆる「成功者」と呼ばれる類の人たちですが、成功者たちの多くがウォーキングを支持するのは、限られた時間の中でいかにしてクリエイティブな発想を生み出すかを重要視しているからです。
彼らは新しいアイディアを生み出す上で必要な思考整理の方法として、歩くことが効果的であると知っているゆえに、「歩きながら働く」を実践してきました。
歩くことで自分自身と対話し、自分の本心に気付ける。歩くことで凝り固まった思考がほぐされ、頭の中がクリアになる。歩くことで精神が安定し、新しい発想に結びつきやすくなる。誰かと一緒に歩くことで懇親を深められ、連携性も向上していく。
そういった意味でも、ウォーキングは「移動式瞑想」とも言えるでしょう。
ウォーキング・ミーティングがもたらす3つのメリット
①:会議の時間が、運動する時間にもなる
わたしのようにデスクワークがメインの人の場合、通勤時間を除くと、コンビニにおでんを買いに行った時しか歩いてなかったなんて日がわりとあるものです。
その都度、運動しなければと決意を新たにするのですが、運動すること自体を目的にしてしまうと、作業を一時中断したり、プライベートの時間を削ったりして、「運動するための時間」を確保しないといけなくなります。これはなかなか難しいことです。
そこで、いつもの会議を座ったままではなく、歩きながら行う。それだけで1日のスケジュールに無理なく、エクササイズの時間を取り入れることができます。
つまり仕事中である会議の時間が、運動する時間にもなるということ。
ワークとエクササイズの両立の観点からも、ウォーキング・ミーティングは最良の活動の一つ。デスクワーカーの命題である「1日中座りっぱなし問題」に有効な対策です。
②:上下関係の垣根を越えて、一体感を生み出す
一般的な会議の場合、上座/下座といった目上の相手に対する敬意を示す考え方にもあるような上下関係を意識させる配置が時に、マイナスな心理的影響をもたらすことがあります。
正面から向かい合う位置どりは、少なからず緊張感をともなうものですが、ウォーキング・ミーティングは基本的に全員が同じ方向を向いて、横並びで会話することになります。
会議室で向かい合う視点に比べて、全員が同じ方向を見ているウォーキングの視点は、遥かにオープンかつフラット。横並びになるだけでも威圧感がだいぶ薄まり、リラックスして話せるようになるものです。
また、ウォーキング・ミーティングの基本的なルールが「役職や肩書きに関係なく、フラットな立場で話すこと」「どんな意見でも途中で口をはさまずに聞くこと」なので、共通の目的に向かって進んでいくチームという連帯意識が強まり、上下関係の垣根を越えて、一体感を生み出す効果が期待できます。
③:想像力、創造性を向上させる
スタンフォード大学の研究では、歩行中には座っている時よりもクリエイティビティ(創造性・創造力)が高まり、平均で60%も新しいアイデアが生まれることが示されました。しかもその効果は、ウォーキング後も継続するというのです。
なお「歩く」という行為自体がクリエイティビティを強化させる主要因であって、歩く場所は屋内でも屋外でも変わらないそうです。
行う環境によって得られる効果が影響されることがなく、特別な準備不要で取り入れられる導入ハードルの低さも、ウォーキング・ミーティングの特徴です。
少人数制のブレストで真価を発揮
先述のスタンフォード大の研究でも言及されていますが、ウォーキングは自由な発想を引き出す「発散的思考」に有効とされています。
発散的思考とは、問題解決において多種多様で試行錯誤的な思考が行われる際に働く思考のこと。論理性にこだわらず、さまざまな視点から発想を生み出そうとする思考を指します。
そのためウォーキング・ミーティングは、ブレインストーミング(以下ブレスト)のような、少人数制グループでの意見の発散、アイディア出しのシーンにおいて、その真価を発揮すると考えられるのです。
ブレストとは集団思考、集団発想法、課題抽出などとよばれ、その場では決定や他者の意見批判などは行わず、多くのアイディアを出し合いながら互いの案を発展させていくことに重きを置いた会議方式です。
ブレストでは固定観念に縛られない自由な発想とオープンコミュニケーションが要求されるため、「歩く」という行為自体がクリエイティビティを強化させる主要因であるウォーキング・ミーティングの特性を活かしやすいのです。
ウォーキングコースや公園など放たれた空間で行えば、レクリエーション感も手伝って、新しいアイディアが雪だるま式に膨らんでいくかもしれませんね。
座っている時間が2時間増えるごとに、死亡リスクが15%上昇
「第ニの喫煙」なんて表現があるほど、座りっぱなしの健康リスクが高いことは周知の事実です。
ウォーキング・ミーティングの効果の発現性を実感しやすくする上で、座りっぱなしでいることの健康リスクについて確認しておきましょう。
京都府立医科大学 大学院医学研究科の行った調査では、生活習慣病の有無にかかわらず、日中、座っている時間が2時間増えるごとに、死亡リスクが15%上昇することがわかっています。
【参考】京都府立医科大学日本多施設共同コーホート研究事務局:「座っている時間が長いほど死亡リスクが増加する」(2021年6月25日)
なお運動量を増やしたからといって、座りすぎによる健康リスクを完全には抑制することはできません。
厚生労働省の調査によると、健康増進施設などで運動プログラムを定期的に実施していても、生活の中で座りすぎている場合、座りすぎていない人と比較して寿命が短く、肥満度も高く2型糖尿病罹患率や心臓病罹患率が高いことが報告されています。
さらに悲しいことに、座りすぎによる悪影響は身体面の健康だけでなく、精神面の健康(メンタルヘルス)にも及ぶことがわかっています。
明治安田厚生事業団の調査によると、1日12時間以上座っている人は、座っている時間が6時間未満の人と比べて、メンタルヘルスの悪い人が約3倍も多いと報告されています。これは座りすぎによる疲労やストレス過多が、うつ病を併発させる危険性を示しています
【参考】明治安田厚生事業団:健康づくりウォッチ「座りすぎ」はカラダにもココロにも悪い?」
デスクワークが主な場合、定期的に席を立ってストレッチしたり、一つ前の駅で降りて歩くなどの対策を取る人もいるでしょう。
しかしタスクに集中していると、気が付けば2時間以上座り続けてしまうなんてことがよくあるもの。自分がないだけで、1日の大半を座って過ごしている人が大半です。
不安を煽る意図ではありませんが、座り続ける時間が長いほど健康リスクが高まるという事実を、心に留めておく必要があるでしょう。
スタンディングワークの時間を徐々に長くしていく
「長時間座りっぱなし」というワークスタイル自体が健康リスクを高めることについてはイメージできたかと思います。
ただし1日の大半をデスクワークで過ごしている人が、極端にスタンディングの時間を増やすと体に強い負担やストレスがかかることから、生産性が下がりかねません。
なので最初は「立位」と「座位」の姿勢を交互に使い分けて、1日のスケジュールのなかに無理なく組み込んで、スタンディングワークの時間を徐々に長くしていくといいでしょう。
わたしの場合、座り作業を2時間したら、スタンディングデスクに移動し、立って30分作業するというのをローテする感じです。
立ちながらの作業は筋肉を適度に動かすので姿勢も良くなり、血流促進に効果的です。血流が良くなると脳への酸素供給量が増えて、思考力や集中力の回復効果も高まります。
また、座り姿勢よりも適度に緊張感があることで集中力が持続し、クリエイティビティの向上が期待できるでしょう。
参考までに紹介しておくと、わたしが自宅で使っているスタンディングデスクは、電動昇降式タイプの『Flexispot EG8』です。
電動式の良さは手動式と違って、位置の調整がカンタンなところ。高さを一定に固定しないので姿勢を柔軟に変えることができ、体への負担を軽減できます。
『Flexispot EG8』は無段階調節に対応しており、よく使用する高さを記録しておくこともできます。ボタン一押しで戻せるのが便利ですね。
ちなみに以前は『Bauhutte(バウヒュッテ) BHD−700』を使用していました。リーズナブルながら性能はお値段以上です。
サイズも「幅70cm x 奥行き45cm」と比較的コンパクトで省スペース。スタンディングワークの入門用にちょうどいい一台ですよ。
スタンディングワークに慣れるまでにはある程度の時間が必要なので、足への負担と疲労の軽減効果があるフロアマットとの併用もおすすめです。
わたしは『ComfiLife (コンフィライフ) 疲労対策 フロアマット 』を使っています。
疲労やストレスを軽減し、快適に作業できる状態を担保することで、スタンディングワークスタイルへの移行もスムーズになるでしょう。
わたしはスタンディングの時間を増やす意識を持つようになってから疲労も溜まりにくくなり、長年の悩みだった腰痛、肩こりもずいぶんマシになりました。
立位と座位の姿勢を使い分けることでメリハリがついて、作業にも身が入りますし、終日、頭の中がスッキリしている感覚が得られます。
また、タスクによっては、座りより立ってやったほうがはかどるものもあり、立って作業することでランチ後の眠気を抑える効果もありますよ。
ウォーキング・ミーティング、やっぱりいいゾ!
ウォーキング・ミーティングは準備が簡単で、会場のセッティングも不要です。参加者の同意を得て、天候が良ければ即導入可能です。
会議のマンネリを打破するという意味では、新鮮さとサプライズ要素が必要ですし、「今日は天気いいからMTGは外でやろっか」と軽いノリで提案してもいいと思いますよ。
基本的にはオフィス近くの公園やウォーキングコースで実施することが多いと思いますが、事前にコースの下見をしておけば、当日のスムーズな進行になるでしょう。
参加者は多すぎても会話しにくく、通行の妨げになるので最大4人くらいがベター。先述のとおり、ウォーキング・ミーティングは「発散的思考」に有効とされていることから、ブレストのような少人数制のシーンにて真価を発揮します。
「アイディアが泉のように湧く」とまでは盛りませんが、数あるチームビルディングのなかでも導入ハードルの低さは随一ながら、実感値が思いのほか高いと改めて実感できました。
まだ試したことがない方や、昔やったことがある方も、ぜひ取り入れて効果を実感してみてください。ウォーキング・ミーティング、やっぱりいいゾ!
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